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名古屋地方裁判所 平成11年(レ)137号 判決 2000年5月08日

控訴人

河原田充

被控訴人

太田智明

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一申立て

一  控訴人

1  原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

2  被控訴人は、控訴人に対し、原審認容額のほか、更に金三七万六三四五円及びこれに対する平成九年七月二六日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

4  第2項、第3項につき仮執行宣言

二  被控訴人

主文同旨

第二事案の概要

本件は、控訴人が運転する控訴人所有の普通乗用自動車(以下「控訴人車」という。)と、被控訴人が運転する普通貨物自動車(以下「被控訴人車」という。)が衝突し、控訴人車が損傷を受けた交通事故(以下「本件事故」という。)につき、控訴人が、被控訴人に対し民法七〇九条に基づき損害賠償を請求した事案である。

一  争いのない事実等

1  本件事故の発生

(一) 日時 平成九年七月二六日午後一時二五分ころ

(二) 場所 愛知県豊橋市牟呂町字松崎二〇番地先路上

(三) 控訴人車 普通乗用自動車(豊橋三三と五三五六)

右運転者 控訴人

右所有者 同右

(四) 被控訴人車 普通貨物自動車(豊橋四〇せ八四六)

右運転者 被控訴人

2  本件事故現場は、南北に通じる道路(以下「南北道路」という。)とほぼ東西に通じる道路(以下「東西道路」という。)との交差する交差点(以下「本件交差点」という。)である。本件交差点は信号機により交通整理が行われ、南北道路は片側二車線の道路であり、東西道路は中央線の引かれていない道路である。

3  本件事故当時、本件事故現場付近は大雨のため視界が悪かった。

4  被控訴人車は、南北道路の南進車線の第二車線を進行し、本件交差点手前で進路前方の車両を避けるため一旦第一車線に進路変更をし、前車を追い越し、再び本件交差点直前で第二車線に進路変更をした。

5  控訴人車は、南北道路を南側から進行し、本件交差点で右折する予定で本件交差点内に停止していたところ、被控訴人車が衝突した(控訴人本人(原審))。

6  控訴人車は、本件事故により、左フロントドア等に損傷を受け、修理費用として六五万二六九〇円を要した。

二  争点

1  被控訴人の過失及び過失相殺

(一) 控訴人の主張

(1) 被控訴人車は、本件事故当時大雨のため視界が悪かったにもかかわらず、制限速度時速五〇キロメートルの道路を時速六〇キロメートルで走行した。また、被控訴人車は、第二車線上の大型車両を追い越した後、再度第二車線に進路変更をしたが、被控訴人は、右追越し、進路変更に際し、第二車線上の大型車両の存在のためその前方の見通しがきかなかったのであるから、進路を変更する先の安全を十分に注意して進路を変更しなければならなかったにもかかわらず、これを怠った。さらに、被控訴人には前方不注視の過失もあった。

(2) これに対し控訴人車は、本件事故の際、本件交差点内で停止していたのであり、道路交通法三七条に違反していたとはいえないか又は仮に違反していたとしてもその程度は非常に小さい。

(3) 以上のように、被控訴人は、制限速度を超え、前方不注視の程度も甚だしいというもので道路交通法三六条四項に違反する重大な過失があった。これに対し、控訴人には同法三七条違反の行為はないか、あったとしてもその程度は軽い。したがって、本件事故につき控訴人の過失はないか又はあったとしても著しく程度が軽い。

(二) 被控訴人の主張

本件事故は、交差点における直進車と右折車の事故である。控訴人は、控訴人車が停止していたことを強調するが、そうであっても、右折車は対向車線上に進入したり、進入した所で停止をして対向直進車である被控訴人車の進行を妨害してはならないのであるから、本件事故発生については、控訴人に五割を超す過失がある。

2  代車料

(一) 控訴人の主張

控訴人は、本件事故により控訴人車が使用不能になったため、平成九年八月三一日まで訴外石井清から車両を借り受け、その代金として一〇万円を支払った。

(二) 被控訴人の認否

不知。

第三争点に対する判断

一  争点1(被控訴人の過失及び過失相殺)について

1  前記争いのない事実等並びに証拠(甲二、控訴人、被控訴人各本人(各原審))及び弁論の全趣旨によると以下の事実が認められる。

(一) 本件事故現場の概況は、別紙交通事故現場見取図(以下「別紙図面」という。)記載のとおりであり、本件交差点は、信号機により交通整理の行われている交差点で、片側二車線の南北道路と中央線の引かれていない東西道路とが交差していた。被控訴人は、南北道路の南進車線を走行してきたが、南進車線の本件交差点手前の第二車線は右折専用車線ではなかった。また、南北道路の最高速度は時速五〇キロメートルに制限されていた。

本件事故現場付近は、本件事故当時、台風が近付いていたため大雨になっており、自動車のワイパーを最高速にしてもかなり前方が見えにくいほど視界が非常に悪かった。

(二) 控訴人車は、南北道路を北進し、本件交差点で右折東進する予定であったが、控訴人車が本件交差点に近付いた時本件交差点の北側対面信号機が赤色を表示していたことから、控訴人車は本件交差点手前の第二車線で方向指示器により右折の合図をして一旦停止をした。

(三) 本件交差点の控訴人車の対面信号機が青色になったことから、控訴人車の前方にいた二、三台の車両が右折東進したが、対向車線を北から南に直進してくる車両はなかった。

(四) 控訴人車が本件交差点手前の停止線付近で再度停止していた時、別紙図面の地点付近に大型車両が一台おり、同車両が停止したとも見られるような状態であったので、控訴人は右折を開始した。しかし、控訴人車の右折先道路である東西道路の東側道路には既に先行車両が停止しており進入することができなかったので、控訴人は、控訴人車を対向車線の第二車線の延長内である別紙図面<ア>の地点付近に停止させた。

(五) 被控訴人車は、本件交差点手前で、第二車線を時速約六〇キロメートルで走行していたが、別紙図面の地点付近に右折の合図中の大型車両がいたことから、同車両の左側から同車両を追い越そうとして第一車線に車線変更をした。被控訴人は、右大型車両のため同車両の前方を見通すことができなかったにもかかわらず、同車両を追い越した後、再び車線変更をし別紙図面<2>地点付近で同車両の前方の第二車線に入った。被控訴人は、この際、追い越した大型車両に気を取られた。その後、被控訴人は、別紙図面<2>地点付近で控訴人車に気付いたが、急制動の措置を講ずる間もなく別紙図面<ア>の地点付近に停止していた控訴人車に被控訴人車を衝突させた。以上のとおり認められる。

2  右認定の事実によると、控訴人車が被控訴人車前方に既に停止していたところに被控訴人車が衝突したこと、被控訴人車は、別紙図面の地点付近にいた大型車両のため同車両の前方を見通すことができなかったにもかかわらず、同車両を追い越した後、直ちに車線変更をし別紙図面<2>地点付近で第二車線に入り、その際同車両に気を取られ前方注視も不十分となっていたこと、被控訴人は本件事故当時大雨で非常に視界が悪かったにもかかわらず、制限速度である時速五〇キロメートルを超す時速約六〇キロメートルで走行していたことが認められ、これらの事情からすれば被控訴人には前方不注視、速度違反等相当の過失があったというべきである。

しかし、前記の事実によると、控訴人車は衝突の際停止していたとはいえ、そもそも控訴人車の右折先道路には停止している車両があり、直ちに右折を完了して本件交差点内から出ることができない状況であったのであるから、右のような状況の下では右折を開始し右折専用車線でもない対向車線側の第二車線の延長部分にまで進入し、停止すべきではなかったことは明らかである。そしてこの点において控訴人には重大な過失があったというべきである。

そこで、右各事情を総合して考慮すれば、本件事故については控訴人に少なくとも五割の過失があったものと認め、控訴人の本件事故による損害については右割合による過失相殺がされるのが相当である。

なお、証拠(甲六、被控訴人本人(原審))によると、本件事故後被控訴人は本件につきその責任がすべて被控訴人にあることを認める文書(甲六)を作成し控訴人に交付したこと、被控訴人は控訴人に対し被控訴人車両の損害につき別途請求してはいないことが認められるが、右事実も格別前記判断を覆すものとはいえない。

二  争点2(代車料)について

1  証拠(甲五、控訴人本人(原審))及び弁論の全趣旨によれば、本件事故により控訴人車が使用不能となったこと、控訴人が控訴人車の修理期間中訴外石井清から代車として車両を借り、平成九年八月三一日、同人に対し同車の使用料として一〇万円を支払ったことが認められる。

2  前記のとおり、控訴人車は、本件事故によって、修理費用六五万二六九〇円を要する程度の損傷を受けたのであるから、本件事故から約一か月後である平成九年八月三一日までの代車料一〇万円は、期間、金額とも本件事故と相当因果関係ある損害と認めるのが相当である。

三  以上によれば、控訴人の本件事故による損害は前記争いのない修理費用六五万二六九〇円及び前記認定の代車料一〇万円の合計七五万二六九〇円となり、右損害につき前記割合の過失相殺をすると、三七万六三四五円となる。

第四結論

よって、控訴人の本訴請求は、被控訴人に対し民法七〇九条に基づき損害金三七万六三四五円及びこれに対する不法行為日である平成九年七月二六日以降完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが、その余は理由がない。右と同旨の原判決は相当であって本件控訴は理由がないからこれを棄却し、主文のとおり判決する。

(裁判官 北澤章功 堀内照美 山田裕文)

交通事故現場見取図

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